カモンカモン C'MON C'MON

主演のホアキン・フェニックスの前作『ジョーカー』も、監督のマイク・ミルズの『人生はビギナーズ』も見てなかったけど、なんとなく面白そうで映画を観た。

全編モノクロで映し出されるアメリカの各地の風景が、なんだかレクイエムのようなもの悲しさで、夕暮れのニューヨークのハイウェイを走る車のヘッドランプはこの街への鎮魂の葬列のように映し出されている。

物語りは、9歳の子供を中心とした家族の物語であり、母の介護をきっかけに衝突した兄(ジョニー役のホアキン・フェニックス)妹が、息子の世話をきっかけに再会し、叔父さんと甥(ジェシー役 ウディ・ノーマン)の旅が始まっていく。

NYを拠点にラジオジャーナリストとして、子供たちの生の声を伝えていたジョニーだが、実際に対面する家族としての甥に翻弄され疲弊してゆくが、人として対等な存在として寄り添うことで、徐々にジェシーの内面に触れ心を開いてゆくロードムービーのような作品だ。

映画館で見た後、館内にあったパンフレットを手に取ってみたら「圧倒的多幸感、心揺さぶられる、世界が絶賛」という評価が躍っていた。
私が観たのとははなんか違うなと感じて、再び映画館へ足を運んだ。

改めて私の目にはこの映画は、近未来的な世界を表わしたホラー映画のように映り、アメリカ社会の孕む不安と病理を子供たちの視点から暴き、現実を直視しようとしない大人達に警鐘を鳴らしているように映った。

未来人である子供たちにとって、目の前に現れる現実はあまりに不自然で、非現実的な現象として表れているが、大人たちはそれを直視しないことによってなんとか日常をやり過ごしている。

子供たちはそんなふがいない大人たちを助け、励まし「恐れず前を見てカモンカモン(前へ前へ)」と促す。

何よりもジェシー役のウディ・ノーマンの可愛さには、どんな映画評よりも心を動かされてしまう。ホアキン・フェニックスへの高評価もこの相棒のおかげというところか。

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