午後の遺言状 新藤兼人監督作品

この作品は、1995年の公開作品であるがリアルタイムには観ていなかった。

何も知らないで観ていたら、あまり感動することもなかったかもしれない。

この作品の主人公である、杉村春子音羽信子(新藤兼人夫人)もすでに鬼籍に入って久しい、昭和の女優である。

この作品を観ることになったきっかけは、新藤監督が2000年に公開した映画『三文役者』である。
昭和映画のバイプレーヤーとして名を残した、殿山泰司の生涯を『三文役者の死』として描いた新藤監督自らが映画を製作した。
この映画で、殿山の近親者として親交のあった音羽信子が狂言回し役として登場している。
後で知ったことだが、音羽は1994年の12月に肝臓癌で亡くなっている。すでに余命宣告を受けていた音羽を、遺作になるだろうことを予感して、新藤は映画を撮ったという。

そこで、なぜ2000年に公開した『三文役者』に音羽が"出演"していたのかという疑問が

生まれたのだが、新藤監督はすでにその頃から映画の構想があり、音羽に語らせていたというのだ。

映画というものは、時に非情であり、映画人というものはすごい人たちだなと感じるエピソードである。

この映画の主人公である杉村春子も、劇場公開された翌年の1996年4月にすい臓癌で亡くなっている。


この映画は昭和を代表する二人の名女優の、生き様と人生観を映画の中に投射し、死と向き合う女の一生を描いて見せた秀作である。