死の棘 小栗康平監督

小栗監督作品を最初に見たのはどの映画だったろうか?
きっとこの"死の棘"かまたは"泥の河"だったろうと思う。

泥の河はきっと、テレビで放送されたものを観たように思う。
死の棘は1990年にカンヌ審査員グランプリを取った作品なので、その時に映画館で観たのだと思う。

実は、小栗康平監督の作品が好きで、以前に作品集のDVDを購入していたので、ブログを書くにあたり、"死の棘"を改めて観てみた。

岸部一徳扮するトシオと松坂慶子扮する妻ミホが裸で正面を向き、夫の不貞を問い詰める問答で映画がスタートすると記憶していたが、それは記憶違いであった。

その場面は映画の中ほどにあったが、あまりに印象的なシーンなのでその場面ばかりが印象に残っている。

若いころ(多分30代)に観たときは、映画のストーリーにとらわれ、特攻隊の生き残りである主人公(作家の島尾敏夫)が、夫婦不和をもたらし家庭が崩壊していくという姿を、もう一つの戦争被害者というように観ていたが、歳をとってから改めて観たら、映画の映像の美しさと、妻役の松坂慶子の精神が壊れていく女の切なさややるせなさが、あまりに美しく、うっとりして観てしまった。

岸部一徳の抑揚の少ない演技と、松坂慶子のすっぴんの演技は映画というよりは演劇を見せられているような錯覚に陥る。