三度目の、正直
正直何の前情報もなく、まったくのノーマークで、監督も俳優も誰一人知らないという状況で見た。
最初のうちは、出演者の背景や状況がよくわからない時間が続いたが、物語の核となる記憶喪失の青年が登場してからは、ストーリーが流れ出し、主演(川村りら)の月島春の常軌を逸した行動が始まる。
登場する人々はみな淡々とした語り口だが、だれもがどこか闇を抱え込んでおり、その人々が様々に交わりながら、日常をやり過ごしていく。
主演女性の弟役で小林勝行(ラッパー)が登場するのだが、劇中でも妻と子供のいるラッパー役で登場している。
この映画で彼が登場することにより、映画の生々しさが増しており、彼の個性そのものがこの映画の持つ魅力を引き出しているように思える。
圧巻は、ラッパーの妻が心身症を悪化させ、通っている医者と恋愛関係となり、車の中で夫婦喧嘩をするのだが、ものすごい臨場感があり切ない。
決して何かが解決したり、明確なエンディングにはつながらないのだが、日々人が生きて暮らしているという現実を見せられているようにも感じる。
映画を見た後で知ったのだが、監督(脚本も)の野原位(のはらただし)さんは、本作が長編映画としてはデビュー作となるそうで、これまでに『ハッピーアワー』(濱口竜介監督)や『スパイの妻』(黒沢清監督)などの共同脚本も手掛けているそうだ。
映画館でこのような映画に偶然出会うことが、劇場通いの醍醐味であり至福である。