オアシス(oasis) 韓国映画

この映画を観て初めて、イ・チャンドン監督のすばらしさを知った。

この映画に最初に出てくるのは、真冬に半袖で平気そうに歩く変わった男である。
男は、店先で勝手に売り物の豆腐を食べ始めるが、見かねた店主は「牛乳もどうだ」と渡すと、男は「テヘ牛乳はないのか?」「牛乳はテヘが一番だ」と言いのけ、店主もあきれて苦笑する。

男は、刑務所から出てきたばかりなのだが、その実家を訪ねても家族は引っ越していておらず、連絡もつけられない。男は近くの食堂に入ってたらふく食べた後、お金はない、家族に連絡がつけば払いに来てもくれると店主に話すが、店主はあきれて警察を呼んだ。

結局家族と面会できたのは、無銭飲食で連れていかれた警察での対面ととなった。

出だしからいかにこの男が常識外れな人間であるかが映し出されるが、ここからの展開がこの映画のストーリーの重要な部分が始まる。

男は、翌日果物籠をもって、服役の原因である、過失致死の被害者宅を訪れるが、被害者(の子ども夫婦)からけんもほろろに突き返されてしまう。
そこで出会った障害(脳性まひ)をもった妹に好意をもち、別の日夫婦のいない時に訪れ、欲情して強制性交に至ろうとするが、妹はパニックとなり失神してしまい。男は未遂のまま逃げ帰ってしまう。

ここまで見たら、想像を超えた展開に度肝を抜かれ、この先どうなるのかと一気に引き込まれてしまう。

しかし、この先の展開はさらに予想を超えた、ヒューマンエンターテーメントの領域に向かってゆく。
私たち(観客および常識人)が、先入観で作り上げてしまったこの社会の常識が、きわめて差別的で独善的な価値観で作り上げられているかを、二人のアウトサイダー(はみ出し者と障碍者)の紡ぐ愛の物語からあぶりだされてゆく。

観客は、常識者としてとらわれた自己意識をヒリヒリと自覚しながらも、二人の他はすべて敵という中で、愛と自由を獲得しながら燃え上がる二人のラブストーリーに圧倒されてゆくのだ。

見事な脚本であり、映像であるが、それは巨匠の名の高い監督の手腕だけでなく、主演の二人(女優ムン・ソリ、男優ソル・ギョング)の熱演が素晴らしい!

観るべき作品です。