月は上りぬ 小津安二郎脚本

1955年に田中絹代の監督で公開されたこの作品は、戦後すぐの頃(終戦前とも)小津により作られたが、制作会社との折り合いがつかずずっと棚上げになっていたものを、田中絹代の監督作品として制作されたというものです。

やはり、小津脚本の作品ならでわの小津調のストーリー展開で、知らない人には小津映画といっても違和感のない作風に仕上がっている。

しかし、小津作品の精通者であれば、説明的なカット(家の表札のアップなど)などは気になるかもしれない。

全体的には、とても面白いメロドラマ的なストーリーで、東京から疎開し奈良で暮らす父と三姉妹の4人家族がドラマの舞台となっている。
末娘は、長女の元夫(死別)の弟と恋仲でであるが、失業中のその弟とはうまく進展していない。次女が密かに気になっている弟の友人との仲を取り持とうと二人を月夜の晩に誘い出すことに成功したが、自分達はひょんなことから喧嘩してしまい、仕事で東京に引っ越すという夜になんとか仲直りして、東京へ旅立つ。
家に残った父(笠智衆)と長女であるが、父は長女にも元夫の友人との再婚を薦めるのである。

『晩春』での父は、娘に結婚の決意をさせるために再婚すると嘘までついて決意させていたが、この作品でも父は娘たちの幸せを第一に考えるが、父の寂しさまでは表現されていない。

 とはいうものの、生涯6作品のうち2作目の監督作品という、田中絹代の力量も素晴らしいものだ。
自身も家の下働き役で出演しているが、末娘役の北原三枝とのやり取りはさすがの演技だ。

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