秋刀魚の味 小津映画

小津安二郎監督が1963年の誕生日に60歳で亡くなったため遺作となってしまった映画だ。

公開は1962年(私の生まれた年だ)

これまでストリーミングで多くの小津作品を観てきたが、なるべく初期作品から鑑賞したいと思い、つい最近初めてこの作品を観た。

カラー作品であり、晩年の監督作品ということで、これまで監督が生み出してきた物語の様々な要素がちりばめられている。

しかし主要なテーマは、多くの若者が亡くなった先の戦争で、奇跡的に生還できた若者が、戦後社会の中で歳を重ね老いを迎える男の姿として描かれている。

小津作品に多く出演し、その中で年齢を重ねてきた俳優、笠智衆が主人公平山周平役であり、その姿はそのまま笠自身の人生とも重なり、監督自身とも重なる。(監督は生涯独身であったが)

妻を早くに亡くし、子供三人を男手一人で育ててきた家族の物語であり、年頃となった娘を何とか結婚させようする男親の姿が描かれている。
このようなテーマは小津作品には幾度となく描かれており、ともすると別の作品(例えば晩春)と混同してしまう。

これまでの作品との違いは、出演者の多さである。
子ども達(岩下志麻佐田啓二三上真一郎)の他に、兄嫁の岡田茉莉子、周平の学友(北竜二、中村信郎)、その妻三宅邦子、環美千代、周平の戦友に加東大介、兄の後輩に吉田輝夫、周平の恩師に東野英治郎、その娘に杉村春子、バーのマダムに岸田今日子という面々だ。

特に印象に残ったのは、中学の恩師(東野英治郎)の慰労会後、旧友(中村信郎)とともに恩師を家まで送った後、今は中華そば屋を娘(杉村春子)とともに細々と営むその家で、酔い潰れた父親の隣で声を殺し泣く娘のシーンだ。

さすが杉村春子、四十過ぎた行き遅れた女の悲しみを手の表情だけで表現している。

もう一つ好きなシーンは、周平が恩師のラーメン屋に再び訪れた際、戦友(加東大介)にばったりと出会い、彼に連れられて入ったバーでマダム(岸田今日子)と戦友(加東大介)と三人で、軍艦マーチに合わせて軍隊式敬礼を交わす場面だ。
戦場経験もある、加東大介の敬礼は実にリアリティがあり、せかされて交わす周平のまんざらでもなく楽しそうな顔、それを見てまねるマダムのとてもチャーミングな敬礼姿は、あの時代を経験したものだけが共有できる哀愁が現れている。

なんとか娘(岩下志麻)を見合結婚させ、式を終えた後酔った姿でバーを訪れた時に、マダムからお葬式の帰りかと問われ、そんなもんだと答える周平の姿は印象的だ。

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